島田雄貴
島田雄貴デザイン事務所代表の島田です。
最近、R・グロス『アメリカ流クリエイティブライフ・自分学の技術』(紀田順一郎訳、TBSブリタニカ)の本を読んで、大変啓発されることが多かった。
著者は1935年ニューヨーク生まれで、正規の学校教育を受けず独学で勉強し、出版社の編集者を振り出しにフォード財団、教育振興基金などを経て現在、フリーのライターとして活躍し、『生涯学習者』『新しい専門家』などの著書を出し、知的生産の方法に関する権威者となっている。
本人の独学経験を盛り込むとともに現在、アメリカで活躍している第一線の知的冒険者たちの知的表現のプロセスを見事に描き出している。
日本でもよく知られている人々を上げると、『第三の波』のA・トフラー、社会思想家E・ホッファー、自由大学で著名なW・ドレイブスなど、枚挙にいとまがない。
工場やちまたで働く人、普通のサラリーマンや主婦が、どのように自分のテーマを掘り起こして学び、著名なライターになって行ったかの軌跡を述べているのである。
そこにみられる共通した要素は、自分を実現したいという漠然とした衝動、知の情熱を惜しまなかったからだと確信している。
「誰でも自分に固有な可能性を発見し、育てる可能性は持っている。
それを現実化できるかの鍵は、自分に手の届きそうなテーマに集中して、そこに全力を傾ける。
そうすれば、見るべき成果を上げられる」
知的世界へ扉は、誰にも開放されている。
多くの人はその扉の前で、才能がないと開ける努力をしない。
大切なことは、扉を開けようとする意志を持つことである。
そこで彼は、知の冒険への出発にあたって、次の注意事項を述べている。
(1)漠然としたプランを適当な言葉で表現し、本当にやる価値があるか どうか判断する。
(2)たとえ未開拓の分野であっても、何らかの手掛かりを見つける。
(3)埋もれている多くの素材から必要なものを選び、手に入れる。
(4)経験豊富な学者や研究者の理解と助言を得る。
(5)ドラフトを書いて、しかるべき協会に提出し、資金援助を求める。
(6)ドラフトを再点検し、追加すべきアイデアを付け加える。
(7)企画を実行に移す(見直し・修正・変更)。
(8)報告書の構成をはっきりさせる。
(9)報告書の下書きをする。親しい人々に見せて、意見を求める。
(10)成果を清書し、できるだけ多くの人の目に触れるようにする。
これらを行っていくためには、家庭に狭くてもいいから、作業部屋を確保すること、公共施設を利用することなど、知的環境を整えること、同好の志を見つける努力が必要であろう。
だが、何よりも必要なことは、本人の最大限の努力と技能を投下することであろう。
恐らく余暇の大部分は、この目的のために投下され、かつてのように退屈に悩まされて、ストレス解消のために盛り場を俳徊することはなくなるであろう。
また、時間をかければかけるほど心の充実感は高まり、仕事で嫌なことがあっても忘れられるであろうし、家庭・地域や職場でのつまらぬ争いは減少するであろう。
ここで、忘れてはならないことは、あくまでも仕事との両立が大切だということである。
知的レジャー活動は、マイペースを崩さないことが課せられる。
そこで成功に導くための戦略は、たくさんの端切れから1着のコートを仕立てるように、自分のペースで目標に到着して行くことがなされなければならない。
その手法について、3つの留意点を述べている。
(1)問題が手に負えないほど大きければ、それを細分化してみる。
(2)自分の関心にとって必要な資料や相談相手を見つける。
(3)そこから必要なものを引き出す。
とにかく、自分にとって興味のある課題をまとめようとしたら、時間はいくらでもかかる。
時間を持て余して退屈をすることはない。
成果を上げるためには、身近なところで仲間を見つけ、連絡を取り合い、時には、専門家の研究会に出席し、助言者を得ることも必要である。
大切なことは、勇気を持って行動することであると、島田雄貴デザイン事務所ではクライアントに提唱させていただいている。
技術は、その道程の中で十分に養成されるものである。